研究内容

口腔生化学は、基礎歯科医学の一分野で、主に生化学的・分子生物学的手法を用いて口腔内疾患および組織を研究する分野です。 近年、口腔疾患が全身の健康に影響を及ぼすことが明らかになっていることから、口腔のみならず全身の器官、組織などの研究も不可欠です。

研究課題 1: 脳疾患におけるアミノ酸代謝機構の役割の解明

脳内のグルタミン酸代謝経路

 三大栄養素の一つであるアミノ酸は、ホルモンや神経伝達物質などの生理活性物質の材料やエネルギー源として重要な物質です。中でもうまみの成分でもあるグルタミン酸は、哺乳類の中枢神経系において、大多数の神経細胞が利用する興奮性の神経伝達物質で、学習や記憶において重要な役割を果たしています。グルタミン酸が脳内で過剰に存在すると、神経細胞は興奮毒性と呼ばれる神経障害を起こし、これらは神経変性疾患や神経細胞死の原因とされています。私たちはグリア細胞の1つであるアストロサイトがグルタミン酸を取り込み、代謝する機能の制御機構を解明すべく、生化学的手法や疾患モデルマウスを用いて研究しています。

 

研究課題 2: 歯周病原細菌がもたらす脳内変化の解析

 歯周病と全身疾患との関連が注目を集めるなか、近年、感染症のひとつである歯周病と、アルツハイマー病などの脳内に炎症所見を認める神経・精神疾患とを結び付ける報告が数多くなされています。新潟大学歯学部で確立された歯周病モデルマウスや、細菌を静脈内に投与した菌血症モデルマウスなどを用いて、歯周病原細菌がもたらす脳の炎症(神経炎症)のメカニズムや脳機能の変化を、免疫組織学的、生化学的、行動学的手法を用いて解析しています。

マウスの脳内の免疫担当細胞(緑)とその活性化マーカーであるCD68(赤)の免疫組織像

 

研究課題 3: カイニン酸型グルタミン酸受容体の機能解明

 中枢神経では主要な興奮性の神経伝達物質としてうまみ成分でもあるグルタミン酸が用いられています。イオン透過性グルタミン酸受容体のなかでも、とりわけ機能が未知であるカイニン酸型グルタミン酸受容体は、最近、記憶やうつ様行動に関連するとして注目されています。脳の領域や神経細胞種に特異的なカイニン酸型グルタミン酸受容体の機能を明らかにするために、カイニン酸型グルタミン酸受容体の遺伝子改変マウスを作製して、情動や記憶学習や社会性などに果たす役割を行動解析で調べています。

高架式十字迷路を用いたマウスの行動解析

 

研究課題 4: In vivoイメージングを用いた消化管の感覚メカニズムの解明

 適切な摂食飲水量の調節には摂食飲水行動の抑制・終了制御が重要です。そのためには消化管での栄養素や浸透圧の感知が必要不可欠であることが示唆されてきましたが、そのメカニズムの全貌は明らかになっていません。消化管の感覚受容に主要な役割を果たす迷走神経、脊髄神経の活動をリアルタイムで観察するために、それぞれの求心性感覚神経節である節状神経節、脊髄後根神経節のin vivoカルシウムイメージングの実験系を確立しました。このイメージング実験系を用いて、消化管における浸透圧、栄養素感知のメカニズム解明を目指すことを目的とし、研究を行っています。

マウスの迷走神経求心性感覚神経節である節状神経節のin vivoカルシウムイメージング画像

 

研究課題 5: 口腔扁平上皮癌細胞における新規治療標的の同定

 口腔がんは悪性度が高く、既存の治療法における5年生存率が60~80%と低いため、新規治療法の開発が必要です。がん細胞は自らの代謝系を再編成することにより独自の代謝システムを構築して生存しています。細胞の生存に必須である3つの代謝系(グルコース代謝、アミノ酸代謝、脂質代謝)の中でも脂肪酸合成経路に着目し、口腔がんの新規治療標的の同定を目指しています。

口腔がん細胞株の培養像

 

研究課題 6: 抑制性神経伝達物質を介した生体恒常性維持機構の研究

 主要な抑制性神経伝達物質であるGABA(ギャバ)は、主に中枢神経系で産生されて脳内で利用されていますが、GABAが作用するGABA受容体は、様々な臓器での発現が確認されており、GABAもこれらの臓器において認められています。近年、GABAを含んだ食品が数多く販売されていますが、その作用機序などはよくわかっていません。私たちは末梢組織に発現するGABA受容体の役割を解明する研究を行なっています。

顎下腺におけるGABAB受容体の発現